抄録
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は正常な骨髄に関わらず,低血小板数を示す自己免疫疾患である.今回,私たちは術後重篤なITPを発症した症例を経験したので報告する.
患者は74歳男性で,下顎歯肉扁平上皮癌の治療のため,下顎骨区域切除術,肩甲舌骨筋上頸部郭清術,大胸筋皮弁およびプレートによる再建術を受けた.術前の血液検査に異常値はなく,術中の出血量は310mLであった.術後1日目,血小板数の減少(1.9×104/μL)を認め,血液内科医にコンサルトした.薬剤性血小板減少性紫斑病(DITP),ヘパリン起因性血小板減少性紫斑病(HIT),播種性血管内凝固症候群(DIC),ITP,白血病が鑑別診断として考えられた.直ちに使用薬剤を休薬したが,血小板数は減少し続けたためDITPは除外された.HIT抗体,フィブリン・フィブリノゲン分解産物(FDP),Dダイマーは正常値のためHITおよびDICは否定された.骨髄生検にて正常な骨髄細胞を示し,白血病は除外され,最終的にITPと診断された.術後6日目から4日間ステロイドパルス療法を行い,ロミプロスチム(ロミプレートⓇ)を投与し血小板数が正常範囲内に回復した.ほとんどのITP患者は予め診断がついており術前治療にてコントロール可能である.しかし,本症例では術後に血小板減少を発症した.急性ITPは大出血の原因となるので,早期診断および積極的治療が重要である.