抄録
先天性第Ⅴ因子欠乏症は,常染色体不完全劣性遺伝の形式をとり,鼻出血,月経過多,抜歯後出血などの出血症状や臨床検査所見としてAPTT,PTの延長,第Ⅴ因子活性の低下を示す非常にまれな疾患である.今回我々は先天性第Ⅴ因子欠乏症患者に対する抜歯を経験した.本疾患患者に対する止血処置としては,分離精製された凝固因子製剤がないため新鮮凍結血漿の輸注が行われている.今回の症例では抜歯前において臨床検査結果が顕著に改善しており,輸血療法を行わずに局所止血のみで良好な止血状態が得られた.
今回の症例より,先天性第Ⅴ因子欠乏症患者では後天的な影響がなくても臨床検査結果に大きな変化がみられることがあり,術前の評価や継続的な経過観察が重要であると考えられた.