有病者歯科医療
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臨床報告
下咽頭癌の強度変調放射線治療に際して臼歯部歯科金属除去を行った1例
窪田 稔
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2015 年 24 巻 1 号 p. 25-32

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抄録

 強度変調放射線治療(intensity modulated radiation therapy:IMRT)は,腫瘍の3次元的な輪郭に沿った線量分布作成を可能にする技術で,CT画像による高精度な治療計画を必要とする.頭頸部癌の治療では,歯科金属によりCT画像上に金属アーチファクトが発生し,正確な治療計画が不可能になることがある.今回,我々はIMRTに際して予め歯科金属除去を行い,治療計画用CT画像において金属アーチファクトを軽減することができた下咽頭癌の1例を経験したので,その概要を報告する.
 患者は79歳男性で,IMRT前の歯科治療・口腔ケアおよび口腔内歯科金属除去の依頼で,2014年5月に当科紹介受診となった.口腔内所見として残存歯17本すべてに金属冠による補綴処置が施されていた.欠損歯部分を含めた金属冠歯数は20本であった.当科受診前に撮影されたCT画像では,上下顎ともに広範囲の金属アーチファクトが認められた.IMRT前の歯科処置として,臼歯を中心とする9本に対して金属冠除去を行った.上顎義歯の鉤歯3本および他2本の歯に暫間被覆冠を作製した.予後不良あるいは保存不可能と判断した臼歯3本と根尖病変を認めた右下犬歯は抜歯した.処置に要した期間は34日間で,受診回数は6回であった.治療計画用のCT画像では,当科受診前の画像所見と比較し,明らかに臼歯部領域で金属アーチファクトの減少が認められた.2回目のCT撮影から14日後より入院下にて放射線治療(2Gy×35回~70Gy)が開始された.
 頭頸部の放射線治療に際して,歯科金属除去を行うことによりいくつかの歯科的リスクや経済的問題が生じうる.一方,除去の範囲は,CT画像上のアーチファクト発生の部位や程度を左右し治療計画の精度に大きな影響を与えると考えられる.したがって,治療効果の高いIMRTのため,予め放射線治療医との綿密な協議が必要である.早期に癌の治療が開始できるよう,歯科的前処置はできるだけ効率的に進める必要がある.

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© 2015 一般社団法人 日本有病者歯科医療学会
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