抄録
非ステロイド系消炎鎮痛剤 (以下NSAID) は日常頻繁に投与されている薬剤であるが長期間の使用で重篤な副作用を認めることがある. NSAID投与による主な副作用の1つとして消化器障害が挙げられている. 本論文では短期間の使用で胃出血を引き起こしたNSAID潰瘍の1例の概要を報告する.
患者は66歳の男性で, 主訴は疹痛と開口障害であった. 既往歴として30年前に胃潰瘍の治療を受けていた. 当科初診時の臨床診断は右側下顎智歯周囲炎に起因する右側頬部膿瘍であった. 入院後, 排膿処置による消炎処置と抗菌剤およびNSAIDを投与し症状は改善傾向にあった. しかし, 入院後7日目に突然吐血がみられ, 内視鏡下での止血処置および赤血球濃厚液6単位の輸血を施行した. 内視鏡検査では多発性の境界明瞭な潰瘍を認めNSAID潰瘍の特徴に合致した. その後, 患者は胃潰瘍の治療を受け, 入院後28日目に退院した. 現在, 経過観察中である.