抄録
今回われわれは人工弁置換術後で舌癌 (T3N0M0) と診断され, 舌部分切除術の周術期に活性化全血凝固時間 (ACT) を指標に, ヘパリン療法を施行したので報告する. 患者は66歳女性, 左側舌縁部潰瘍の精査目的にて当科を受診した. 既往歴として49歳時に僧帽弁閉鎖兼狭窄症, 三尖弁閉鎖不全症の診断で僧帽弁, 三尖弁置換術を受けている. 抗凝固療法としてワーファリンカリウム (ワーファリン®) 2.5mg/dayと塩酸チクロピジン (パナルジン®) 100mg/dayを内服していた. また, 心房細動を合併しており, 短時間の抗凝固療法の中断で人工弁に血栓形成の危険性があった.
そこで手術7日前からワーファリンカリウムからヘパリンナトリウム変更し, 手術6時間前にヘパリンナトリウムを中止した. 術後2時間でヘパリンナトリウムを500単位/hrで再開し, その後にワーファリン3.0mg/dayで再開した. 周術期はACT130-150秒の範囲でヘパリンナトリウムを投与し, 出血や血栓もなく良好に管理した.