抄録
今回, 著者らは高齢初出産を控えた舌癌患者の治療を経験したので報告する.
患者は38歳の女性であり, 1998年10月■日舌右側縁部の潰瘍を主訴に当科を受診した.
治療方針を立てるにあたり, 手術に多くの検討事項があったので, 産婦人科主治医と連携して, 積極的に情報交換を行った. 自験例は高齢初出産で, 無事出産することを前提とした治療計画が不可避であった.
産婦人科主治医と検討の結果, 患者は妊娠中ではあったが, 24週目と安定期であるため, この間に治療を行うこととした. 精査の結果, T1N0M0と初期段階でもあることから1998年10月19日入院のもと, 局所麻酔下で舌部分切除術を施行した. 薬剤は, 産婦人科主治医と検討の上, 必要な限り積極的に使用した. 切迫流産に対しては産婦人科主治医の指示によりβ2刺激剤 (ウテメリン®) を服用させた. 術後の経過は良好で, 術後9日目に軽快退院した. 退院後の術後観察では母子ともに順調な経過をとり, 1990年3月男児を無事出産した.
出産後, 夫, 産婦人科主治医と相談のうえ本人に真実の罹患疾患を告知した. 出産後で精神的にも落ち着いていたため, 動揺は軽度に抑えられた.
術後約5年7か月経過した現在, 再発や転移はなく, 経過は良好である.