有病者歯科医療
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13 巻, 1 号
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  • 高橋 朋子, 鈴木 茂, 児玉 純子, 渡辺 宏樹, 伊介 昭弘, 田辺 晴康, 森 国和
    2004 年 13 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2004/05/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    甲状腺機能亢進症の全身症状には, 悪寒を伴う弛張熱, 動悸, 頻脈, 多汗, 不安障害などがある. 今回私たちは, 亜急性甲状腺炎に罹患後甲状腺の機能は回復したものの, 甲状腺機能亢進症様の自覚症状が残存し, その結果, 口腔疾患の治療と予後に影響を及ぼしたと考えられた症例を経験したので報告する. 患者は亜急性甲状腺炎の治療を受けたが, 治癒後も甲状腺機能亢進症様の自覚症状が残存した51歳の女性. そのため5年前から下顎右側に腫脹と疼痛を認めていたが, 診断や治療に対する不安のため歯科受診をためらっていたと思われた. 下顎の腫脹と疼痛が悪化してきたため歯科受診したが当院紹介された. 私たちは口腔内の状態およびX-P, CT, RIなどの画像から右側の下顎臼歯部の根尖病巣から継発した下顎骨骨髄炎と診断した. 抗菌薬の投与後, 急性炎症症状は消失した. しかし顎骨の手術および抜歯の必要性があったため, 説明し同意を得て臼歯の抜歯および皮質骨除去術を施行した. 診察の遅れはそれに引き続く治療に影響を与えたと思われた. もしもっと早く診察を受けていれば, それらの手術は不必要であったかも知れない. 私たちは甲状腺機能障害の既往を有する患者を治療する際, 引き続き生じる甲状腺機能亢進症様の精神症状に注意を払うべきであると考えられた.
  • 川野 大, 野村 明日香, 長谷川 愼一, 高橋 健二, 滝本 明, 澤 裕一郎, 宮城島 俊雄, 伊藤 正樹
    2004 年 13 巻 1 号 p. 7-13
    発行日: 2004/05/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    近年, インプラント治療は技術向上により歯科治療に有用な選択肢の1つとなった. しかし全身疾患の有無はインプラント治療のリスクファクターとなるため, その適応は慎重に行う必要がある. 今回, 基礎疾患をもつ2例を通してその対応について考察した.
    症例1: 36歳, 女性, 高血圧症, 高脂血症, スタージウェーバー症候群 (精神発達遅滞, てんかん, 緑内障, 自閉症). 高度肥満の上, 長時間の歯科治療が困難であったため全身麻酔下にインプラント埋入術を行った.
    症例2: 57歳, 男性, 発作性心房細動, 脳梗塞, 陳旧性心筋梗塞, 不安定狭心症, 糖尿病, 高血圧症. 静脈内鎮静法併用局所麻酔下にインプラント埋入術を行った. インプラント治療を安全に確実に行うには, 疾患への理解と適切な治療法の選択が重要である.
    今回のような基礎疾患をもつ患者のインプラント治療を成功させるためには患者の信頼と協力, 術者の技術と経験が重要であると考えられた.
  • 小山 宏樹, 柴田 考典, 山森 郁, 大内 知之, 吉澤 信夫
    2004 年 13 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2004/05/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    咀嚼筋隙は解剖学的に複雑な構造のため, 炎症性変化が惹起すると臨床的および病理学的に診断を下し治療を行うことが困難な場合が少なくない. 患者は出産して3週間後の30歳の女性である. 下顎左側智歯周囲炎の診断にて近歯科にて原因歯である智歯を抜去され, その6日後に出産した. 抜歯1か月後に同部の自発痛, 開口障害, 左側頬部の腫脹が出現したため当科を紹介され受診した. 臨床経過, 診察およびCT所見により左側下顎骨髄炎と診断し, 長期間のペニシリン系の抗菌薬を経口投与したが, 著明な改善は認められなかったため, 全身麻酔下にて左側咬筋底部の浅層と深層の間に存在した腫瘤を摘出し, 病理学的に顎放線菌症と診断した. 咬筋隙における膿瘍は大臼歯部病変を原因として生じるものが多く, 臨床的に顎下部と側頭窩の間で急性あるいは慢性症状としてあらわれる. 本症例において, 細菌の組織内侵入を確認するため, さまざまな染色法を実施することにより確定診断を得た.
  • 和田 重人, 古田 勲, 高桜 武史, 高橋 勝雄, 井上 さやか, 津野 宏彰
    2004 年 13 巻 1 号 p. 21-27
    発行日: 2004/05/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    今回われわれは, 1996年4月から2002年3月までの6年間に当科における末期口腔癌症例の気管切開について, 臨床的に検討を行い以下の結果を得た.
    1. 気管切開は男性14例 (73.7%), 女性5例 (26.3%) に施行されていた. 患者の年齢は19歳から90歳までで, 平均年齢は67.1歳であった. 腫瘍の制御が不可能となった部位は頸部12例, 原発部7例であった.
    2. 気切を行った場所は, 病室あるいは処置室が12例 (局所麻酔11例, 局麻+マイナー・トランキライザーによる静脈内鎮静1例), 中央手術室が7例 (局麻3例, 全麻4例) であった.
    3. 気切の適応と判断した理由は, 喀痰の排出困難が9例, 上気道閉塞が9例, 止血管理が1例であった.
    4. 19例全例の術前の患者の局所所見に関して, 気管触知は18例 (94.7%) で可能, 頸部伸展は14例 (73.7%) で可能であった. 術中のインシデントとして呼吸停止と急性の上気道閉塞が各1例認められた. これらの術前の頸部所見は, 施術の時期を決定し安全に気管切開を施行する上で重要な要因と考えられた.
  • 石垣 佳希, 田中 一郎, 足立 雅利, 奥山 宜明, 伊藤 佳依, 白川 正順
    2004 年 13 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2004/05/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    今回, 著者らは高齢初出産を控えた舌癌患者の治療を経験したので報告する.
    患者は38歳の女性であり, 1998年10月■日舌右側縁部の潰瘍を主訴に当科を受診した.
    治療方針を立てるにあたり, 手術に多くの検討事項があったので, 産婦人科主治医と連携して, 積極的に情報交換を行った. 自験例は高齢初出産で, 無事出産することを前提とした治療計画が不可避であった.
    産婦人科主治医と検討の結果, 患者は妊娠中ではあったが, 24週目と安定期であるため, この間に治療を行うこととした. 精査の結果, T1N0M0と初期段階でもあることから1998年10月19日入院のもと, 局所麻酔下で舌部分切除術を施行した. 薬剤は, 産婦人科主治医と検討の上, 必要な限り積極的に使用した. 切迫流産に対しては産婦人科主治医の指示によりβ2刺激剤 (ウテメリン®) を服用させた. 術後の経過は良好で, 術後9日目に軽快退院した. 退院後の術後観察では母子ともに順調な経過をとり, 1990年3月男児を無事出産した.
    出産後, 夫, 産婦人科主治医と相談のうえ本人に真実の罹患疾患を告知した. 出産後で精神的にも落ち着いていたため, 動揺は軽度に抑えられた.
    術後約5年7か月経過した現在, 再発や転移はなく, 経過は良好である.
  • 重松 久夫, 馬越 誠之, 浜尾 綾, 鈴木 正二, 草間 薫, 坂下 英明
    2004 年 13 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2004/05/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    患者は46歳の女性で, 2001年9月■日, 3年ほど前からの左側耳下腺部の腫脹を主訴に当科を紹介され来院した. 甲状腺機能亢進症の既往を有し, 検査ではTSHが0.05μU/ml, T3; 1.3ng/ml, FT3; 4.30pg/ml, T410.5μg/dl, Fr42.11ng/dlであり, プロピルチオウラシル (チウラジール®) の投与により, 甲状腺機能のコントロール状況は良好であった. 左側耳下腺部に40×45mm大の無痛性腫瘤を認め, MRIではT1強調で低信号, T2強調で高信号を呈していた. 耳下腺腫瘍の臨床診断のもとに, 2001年10月18日, 全身麻酔下に腫瘍とともに耳下腺浅葉を切除した. 患者にストレスを与えないように注意し, 術中血圧は85~95/45~55mmHg, 脈拍60~80回/分にコントロールした. 当日はメチマゾール (メルカゾール®; 30mg) を経静脈的に投与し, 甲状腺クリーゼを疑う徴候は認められなかった. 術後2年10か月を経過し再発は認めていない. 病理組織像では腫瘍は網状の発育パターンを示し, 細胞は多角形から短紡錘形で, 類円形ないし円形の核を有する細胞であった. 以上の所見より筋上皮腫 (網状型) と診断した.
  • 布山 茂美, 海津 基生, 佐野 公人, 柬理 十三雄
    2004 年 13 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2004/05/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    境界型人格障害とは, 未熟な心理的防御反応により衝動をコントロールすることが困難となり, 症状が悪化すると自傷行為になどの自己破壊的行動へ移行する精神障害である.
    今回われわれは, 境界型人格障害を有する患者の歯科治療に対し, 全身管理法として静脈内鎮静法を選択し予定処置は遂行し得たが, 術後管理に難渋した症例を経験した.
    患者は17歳の女性で, 身長161cm, 体重42kgであった. 13歳から摂食障害のため小児科へ入院し, その後自傷行為を繰り返すようになり精神科へ転科し, 境界型人格障害と診断された. 現在は, ベンゾジアゼピン系薬剤を5種類および栄養剤1種類を内服中である. 精神科主治医へ対診を行ったところ, 精神状態は安定しており, 処置を行うにあたり問題はないとのことであった. 上下両側智歯周囲炎に対し, 2回に分けて抜歯術が予定された.
    1回目の処置は, 右側上下顎智歯の抜歯術が予定された. 鎮静法の導入にミダゾラム, 塩酸ケタミンを静脈内投与した. 至適鎮静状態が得られたため局所麻酔を施行したが, 直後より不穏を強く示し十分な鎮静が得られず, 急遽プロポフォールへ変更し無事予定処置を終了した.
    帰室直後より急に息ごらえ・あえぎの無呼吸状態を呈する, いわゆる息とめ発作が出現し, 経皮的酸素飽和度が74%に低下した. バッグ-マスクによる加圧人工呼吸を施行すると自発呼吸はすぐに再開したが, すぐに息とめ発作が出現しこの状態が約1時間継続した.
    2回目の処置は前回の経験からプロポフォールによる静脈内鎮静法を選択し, 無事予定処置を終了した.
    病室へ帰室した直後, 前回と同様二の息とめ発作が出現し, 経皮的酸素飽和度が56%へ低下し意識消失, 顔面蒼白, 口唇にチアノーゼを認めた. 直ちに, バッグ-マスクによる加圧人工呼吸を繰り返し施行した. 患者は2回とも翌日に退院することができたが, 術後の対応に難渋した.
    精神疾患を有する患者の歯科治療を行うにあたり, われわれ歯科麻酔科医はさまざまな方法により精神的ストレスを軽減させ, 安全に歯科治療が行われるような環境を提供しなければならない. そのためには, 患者の精神状態と精神状態が安定するために患者との充分なラポールを形成することが重要と痛感した.
  • 中野 みゆき, 廣澤 利明, 永合 徹也, 大橋 誠, 藤井 一維, 佐野 公人, 柬理 十三雄
    2004 年 13 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2004/05/31
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    1998年から2002年までの5年間に日本歯科大学新潟歯学部附属病院において施行された静脈内鎮静法について, 問題点の抽出を試み, その対応を検討した.
    1. 症例数は, 1998年の228例にはじまり経年的に増加傾向が認められた.
    2. 2時間以上の管理症例は全症例の3.5%を占め, 2時間以内の症例と比較して, 全身的合併症の発生頻度が高いことが判明した.
    3. 2時間以上の長時間症例の問題点としては, 同一体位保持などの時間的ストレス, 局所麻酔効果の消失, 輸液量不足に伴う脱水などが考えられた.
    以上から, 安全で快適な歯科治療を提供するためには, 手術時間を含めた基本に忠実な患者管理, そして術者と迅速かつ適切な意見交換のできる環境を構築することが重要である.
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