抄録
今回我々は肥大型心筋症 (以下, HCM) と診断された患者に対する全身麻酔症例を経験した. 患者は63歳女性, HCM, 高血圧症の診断を受け内服加療中である. 上顎洞炎の診断のもと上顎洞根治術が予定された. 術前の安静時心電図では, 脈拍数45回/分およびST低下, ボルター心電図では上室性期外収縮 (SVPC), 心室性期外収縮 (VPC) の散発がみられ, なかにはSVPCの6連発も認められた. 心エコー検査では壁肥厚が認められ左室駆出率 (EF) は58%, 胸部X腺写真では心胸郭比 (CTR) 56%と心拡大を認めた. 前投薬は, アトロピン, ミダゾラムを筋肉投与した. 麻酔導入は, 笑気, 酸素, セボフルランを用いた緩徐導入にて行い, ベクロニウム, サクシニルコリン (SCC) を用いて経口挿管した. 麻酔維持は, 笑気, 酸素, セボフルランを用いて行った. 術中, 循環動態の大きな変動はなく, 心電図上の変化も認められず, 予定処置を終了した. HCMを有する患者の安全な全身管理には, 術前に本症の存在とその重症度を診断することが重要であり, 麻酔管理は左室流出路における圧較差を良好に維持することが必要となる. 本症例では, 術前検査の結果から全身麻酔の施行を決定し, 循環動態を維持し, 重篤な合併症もなく予定処置を終了し得た.