抄録
骨髄移植前に口腔病変を治療することは, 骨髄移植期間中の感染性合併症を減少させるとの報告がなされてきた。しかし, 臨床症状がない根尖病巣歯の治療に対しては一定の見解が得られておらず, その対応に苦慮することが多い。
そこで本研究は, 1987年10月~1993年12月の間に骨髄移植前の口腔診査にて名古屋第二赤十字病院歯科口腔外科を受診した78人の内, 臨床症状がなく, X線写真で発見された根尖病巣歯を有する24人を対象とし, 治療を受けた群 (抜歯群, 再根管治療群) と未処置群に分け, 骨髄移植後の感染性合併症について比較検討することを目的とした。
検討項目は, 1) 発熱日数 (38℃ 以上), 2) 好中球数500/μlになるまでの日数, 3) 腫脹・疼痛・違和感等の歯性感染に関する症状の有無とした。
その結果, 発熱日数, 好中球数500/μlになるまでの日数, 局所感染の有無において治療群と未処置群との間に明らかな有意差は認めなかった。
以上の結果より, 無症状根尖病巣歯は, 骨髄移植後の感染性合併症の発生を必ずしも惹起するものではないことが示唆された。