抄録
われわれは, 維持透析患者の口腔内に自然出血をきたした骨膜下インプラント周囲炎の1例を経験したので報告する。
患者は, 糖尿病性腎症に心筋梗塞などの合併症を有しており, 全身麻酔下骨膜下インプラント体摘出術に際し, そのリスクはきわめて高く, 周術期管理に難渋した。
術前の断続的な自然出血による貧血の悪化は, 術前輸血にて補正し, 血清カリウム, BUN, 血清クレアチニンなどは, 手術前日まで透析を行うことによってコントロールした。また術後の高カロリー栄養補給を中心静脈栄養にて行うことで, 水分, 血糖の管理を単純化し, 同時に術後の口腔内を清潔に保った。手術時間は3時間8分, 術中の総出血量は831gであったが, 術中の輸液を調整することで対応し, 輸血は行わなかった。術後の透析は手術翌日より再開したが, 出血等のトラブルは全くなく順調に回復した。現在, 新たに作製した上下顎総義歯を問題なく装用中である。
本症例の治療経験から, 特に有病者に対して歯科インプラントによる治療を行う場合には, 口腔内の状況のみならず, 全身状態の把握と長期的予後についても慎重に検討するべきであると考えられた。それには, 医科担当医への歯科インプラントに関する啓蒙と患者管理における協力体制の確立が不可欠であると思われた。