抄録
今回, 我々は精神発達遅滞を伴う尿崩症患者の歯科治療における全身麻酔中にデスモプレシンが原因と思われる低ナトリウム血症を経験したので報告する。患者は11歳の男児で5歳の時, 頭蓋咽頭腫を摘出し, その後, 続発性尿崩症のためデスモプレシンにより治療を受けていた。
当日朝, 通常通りデスモプレシン点鼻後に全身麻酔を行ったが,術中, 本剤が原因と思われる低浸透圧性低ナトリウム血症を生じた。しかし, 低ナトリウム血症は重篤にはならず, 翌日, 無事, 退院の運びとなった。このようなデスモプレシンの副作用を予防するためには術前に水分出納バランス, 血漿浸透圧, 血漿電解質を, 可能であればそれらの日内変動も含め, 十分に把握し全身麻酔管理を行うべきである。しかし, 本症例では精神発達遅滞と高度肥満による静脈確保困難のため術前評価においては, 一時点の検査結果しか得られず, しかも, その採血時刻が適切ではなかったと考えられた。本症例の最善策としては, 麻酔当日の禁食禁水下での水分出納バランスや, 麻酔当日のデスモプレシン投与予定時刻および麻酔維持時間を考慮し, その状況に極力近い条件下で術前検査を行いコントロール状態を評価することが, 周術期のデスモプレシンの副作用予防上望ましいと思われた。