抄録
Cryptococcus neoformans の感染形態は培養形態に比べて細胞が大型化し細胞壁と莢膜は顕著に厚くなる等の特徴的な変化を示すことが知られている. また本菌の細胞周期制御は, 指数増殖期では, DNA合成が開始された後, 引き続いて出芽し, さらにDNA合成完了後, 核分裂が起り, Saccharomyces cerevisiae によく似ていた. しかし, ストレス条件下では様相が変わり特に強いストレス下では一変した. 栄養や溶存酸素などの環境の強い悪化は, 生育以上に細胞周期に大きな影響を与えた. 細胞分裂は抑制され, 細胞が大型化し, 出芽はG2期にまで遅れ, さらに, 未出芽でG2期に停止している細胞が多く認められた. 同様の変化はまた, ラット肺の感染時でも見られ, 出芽のタイミングはG2期まで遅れた.
細胞周期制御の中心に位置するCDC28/cdc2ホモログを遺伝子クローニングしCnCdk1を単離した. これはS. cerevisiae やSchizosaccharomyces pombe のCDC28/cdc2と高い相同性を示した.
GDSEIDモチーフは非常に特異的で, これまで知られているCdk1全てに共通している. 一方, Cdk1以外のCdkでは保存されていない. CnCdk1はGDSEIDモチーフが完全に一致, 確かにCDC28/cdc2ホモログということが出来た. またPSTAIREモチーフはサイクリンとの結合部位であり, 保存性の大変良いサイトである. しかし, 本菌のCdk1ではアラニンがセリンに置き換わっていた. 本モチーフが保存されていないのにCdc28/cdc2活性欠損を相補できるCdk1としては, それまで3例が報告されているのみで, C. neoformans のものは第4例目であり本菌のCdc28/cdc2ホモログの特異性を示した. また細胞周期制御に関係する他のシステムもC. neoformans では違いが見られた.