抄録
我々はしばしば外耳道検体の直接塗抹染色でMalassezia属真菌を検出しているが,ヒトの外耳道疾患における本属の関与を論じた文献は少ない.そこで検出されるMalassezia属が外耳道炎に関係しているか調査するため,当院耳鼻咽喉科外来を受診した外耳道炎患者72症例(63名)の微生物学的・臨床的検討を行った.症例のうち37症例が細菌性外耳道炎,20症例が真菌性外耳道炎であり,何れの起炎菌も分離されなかった症例が15件あった.真菌性外耳道炎の起炎菌の内訳は,Aspergillus属が10症例,Malassezia属とCandida属が各5症例であった.Malassezia属を検出した5症例の塗抹染色では全例で1視野あたり10個以上の菌体を認め,かつ培養にて発育した菌数が多かったことから,本属による外耳道炎が疑われた.これらの症例では塗抹染色で扁平上皮細胞が多数検出され,うち3症例からは有棘層・基底層に類似する細胞を検出したことから,外耳道表皮のturnoverの亢進が示唆された.臨床像としてはショウ痒と耳閉感,発赤やびらんを認める症例もあり,Malassezia属真菌の関連疾患である脂漏性皮膚炎と類似していた.また,本5症例は抗真菌薬による治療のみにより改善した.外耳道炎患者の一部に本属菌種が起因菌と想定される症例があり,治療に当たっては抗真菌薬の外用が必要と考えられたのでここに報告する.