真菌と真菌症
Online ISSN : 1884-6971
Print ISSN : 0583-0516
ISSN-L : 0583-0516
呼吸器アスペルギルス症の治療に関する研究-臨床的, 病理学的ならびに電顕学的検討
日比野 順子森 健
著者情報
ジャーナル フリー

1985 年 26 巻 4 号 p. 300-309

詳細
抄録

Aspergillus fumigatus を原因菌とする肺アスペルギローマ5例 (検査材料として2例は化学療法が不十分なまま死亡し, 剖検時に摘出した菌球, 局所的化学療法を充分施行後に手術により摘出した菌球1例および喀出菌塊2例), アスペルギルス肺炎2例 (化学療法未施行1例と施行1例) ならびに気管アスペルギルス症1例 (化学療法施行) について, 臨床的に検討するとともに, 病巣内の本真菌の形態を光顕と走査電顕により観察し, かつ培養所見と対比して検討することによって, 治療および予防計画についての考察を試みた.
先ず肺アスペルギローマでは, 化学療法の有無にかかわらず, A. fumigatus は菌球の内部ではその活性度が低く, かつ培養でも発育はみられなかったが, 菌球の表面では菌の活性度が高く, しかも治療例でも真菌の発育がみられた. また菌球は真菌要素のほかに, 真菌の代謝産物, 気管支や空洞壁からの分泌物などによって緊密に構成されているものと考えられた. 以上のことから肺アスペルギローマの内科的治療においては, 抗真菌剤を菌球表面に直接接触させることは必要と思われたが, これに加えるに, 菌球自体に対して機械的に菌球の崩壊を促したり, また蛋白, 多糖体の溶解剤等を局所的に投与してその溶解を促すような手段をあわせ講ずれば, いっそう効果的ではないかと考えられた.
次に組織侵入型のアスペルギルス肺炎では, 宿主の感染防御能の程度によって予後が大きく左右されるが, 少なくとも化学療法未施行では走査電顕で菌糸が肺胞を中心として肺組織内に, 縦横無尽に発育し伸長する像が観察されており, 早期診断と早期化学療法の必要性が強調される一方, 抗真菌剤の経気道的局所投与が予防上有意義ではないかと考えられた. また気管アスペルギルス症では, 走査電顕で真菌の定着, 付着そしてさらに組織侵入の像がみられたことから, 肺炎と同様に抗真菌剤の全身投与と経気道的局所投与との併用が必要と思われた.

著者関連情報
© 日本医真菌学会
前の記事 次の記事
feedback
Top