真菌と真菌症
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真菌感染の菌側要因-特に Sporothrix schenckii の産生するプロテアーゼの性状について-
小川 秀興吉池 高志坪井 良治真田 妙子雷 鵬程阿部 由紀
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キーワード: 真菌, プロテアーゼ
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1989 年 30 巻 4 号 p. 241-246

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抄録

真菌感染の発症因子とそのメカニズムについては, 菌側, 宿主側と多角的に研究されてきたが, 依然として不明な点が少なくない. 従来より病原性真菌の病原性を規定する要因として, 形態の変化, 毒素, 酵素など多彩なものの存在が知られている. 最近, これら酵素系の中でも特に真菌が菌体外に産生・放出するタンパク分解酵素プロテアーゼが, これら病原性に深く関与しているとの報告があいついでなされている.
本稿では, その全てに論及する時間 (紙面) がないので, 最近我々が解明しつつある Sporothrix schenckii (S. schenckii) が産生する protease について, その性状と病原性との関連について報告した.
(1) S. schenckii をアルブミン, コラーゲン, エラスチン, ケラチン等, そのいずれかを添加した培地中で培養すると, これらを分解するようなプロテアーゼを産生する. (2) サブロー培地中ではかかるプロテアーゼの産生は認められない. (3) 分離・精製されるプロテアーゼは2種類で, 就中プロテアーゼIは分子量36,500, 至適pH6.0, キモスタチンにより阻害されるセリン系プロテアーゼで, 一方プロテアーゼIIは分子量39,000, 至適pH3.5のカルボキシルプロテアーゼで, その活性はペプスタチンにより特異的に阻害される. (4) S. schenckii をアルブミン又はコラーゲン添加液体培地中で培養する際, 予めペプスタチン及びキモスタチンを添加しておくと, プロテアーゼI・II共に産生されず, 菌も発育しない. (5) ペプスタチンあるいはキモスタチンのいずれか一方だけの添加では菌の発育は抑制されない. (6) S. schenckii を感染させた実験動物系では, 肉芽腫形成はプロテアーゼI及びIIに対するインヒビターを局所投与することにより抑制される. 以上より, S. schenckii が人体を侵襲する場合, これらプロテアーゼは協力, 補充しつつ, その1要因として働いていることが強く予測された.

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© 日本医真菌学会
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