抄録
Immunocompromised hostにおいて肺真菌症は重要な問題であるが,肺における真菌感染防御能の臨床的な指標は見あたらない.そこで肺胞マクロファージ(PAM)が真菌を処理する能力をin vitroで推定する実験系の作成を試みた.気管支肺胞洗浄にてPAMを採取し,被験者本人の新鮮血清とCandida albicansを種々の比率で加え,PAMの食菌能を顕微鏡的に観察し,逆培養からC.albicansの殺菌能を算出した.その結果,PAM 2.5×106/mlにC.albicans 2.5×107/mlを加え60分間食菌させたとき最適の食菌能を示した.添加血清条件では,10~20%添加時が最大の食菌能を示したが,10%非働化血清添加時の食菌能はきわめて低かった.以上よりPAM 2.5×106/ml,C.albicans 2.5×107/ml,新鮮血清10%を加え,30分後に測定する系が至適条件と判明した.臨床応用では,正常対照群で,食菌PAMの割合は47.5±8.3%,食菌PAM 1個当たりが食菌したC.albicansの平均個数は2.54±0.62,全PAM100個当たりの被食菌C.albicansの総数は123.9±40.8,C.albicans 100個当たりの殺菌率は6.13±0.61%と安定した値を示した.肺疾患患者では,サルコイドーシス群と肺アスペルギルス症群で,食菌能の増加傾向が認められ,前者では個々の食菌PAMの食菌活性が,後者では食菌PAMの割合が増加傾向を示した.また殺菌能では悪性腫瘍群で低下する傾向が認められた.本法はin vivoに近い条件設定であり,PAMの真菌処理能を知る上で臨床上有用な方法と思われる.