1994 年 35 巻 1 号 p. 25-32
病院環境から白癬菌の分離を試み,その分離菌について検討した.検体の採取にはセロファン粘着テープを用い,Actidione,chloramphenicol添加ペプトンぶどう糖寒天平板培地上で培養を行った.その結果,外来患者用スリッパ,水治療法室更衣室マット,浴室の床,足拭きマットなどからTrichophyton mentagrophytes 98集落(89.9%),Trichophyton rubrum 6集落(5.5%),Microsporum canis 5集落(4.6%),Trichophyton sp. 1集落(0.9%)の計110集落の白癬菌が分離された.分離された集落数を平板数で割った数値で検討したところ,水治療法室更衣室マットと病棟浴室の床,マットが白癬菌に強く汚染されていた.
また病院内での白癬菌感染の可能性を,1986年1月から1990年12月までの5年間に,入院リハビリ中に発症したと考えられた足白癬患者11人を対象に検討した.リハビリ開始から足白癬発症までの期間は7日から120日,平均45.9日であった.基礎疾患は脳血管障害3人,整形外科疾患8人であり,片麻痺の患者3人は麻痺側に病巣が認められた.菌種別患者数はT.mentagrophytes 7人,T.rubrum 1人,T.mentagrophytesとT.rubrumの連続感染2人,菌種不明1人であった.したがって公共の環境から高頻度に分類されるT.mentagrophytesは,感染源となっている可能性が高いと考えられた.