日本医真菌学会雑誌
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パラコクシジオイデス症における性差の解明
佐野 文子西村 和子宮治 誠
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1999 年 40 巻 1 号 p. 1-8

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抄録

中南米を流行地とする深在性真菌症のパラコクシジオイデス症は,温度依存性の二形性真菌Paracoccidioides brasiliensisを原因菌とし,室温で菌糸形,宿主内や37℃で酵母形発育する.本症は発症率に大きな性差が存在することが知られており,発症率は10:1以上で男性に多い.この性差については多くの研究がなされているが,まだ結論には達していない.そこで本症における性差を菌側要因と宿主側要因に分けて,実験的に明らかにすることにした.菌側要因として,本菌の酵母形発育に対する生理学的濃度のestradiolの影響は抑制的で,しかも濃度依存性であることが明らかにされた.一方,progesteroneやtestosteroneの発育抑制作用は弱いことがわかった.宿主側要因として,マウスに体重当り一定量の酵母形細胞を接種し,雌は接種時の性周期を調べたうえで,静脈内接種,腹腔内接種,気管内接種して雌雄の菌クリアランスを比較したところ,いずれの接種経路においても,酵母形P.brasiliensisに対する非特異的宿主防御機構は,雌の方が優れていた.さらに雌は,血中estradiol濃度の高いと思われる発情期に酵母形P.brasiliensisのクリアランスが優れ,反対に血中estradiol濃度が低いと思われる発情後期-IIではクリアランスが低下するという一定の傾向が認められた.すなわち感染直後の酵母形P.brasiliensisに対する非特異的宿主防御機構は,接種経路のいかんによらず雌の方が優れ,さらに性周期により変動し,性差と性周期による影響が存在することが明らかになった.以上により,パラコクシジオイデス症における性差の要因として,菌側から酵母形P.brasiliensisの発育に対するestradiolの抑制的効果,宿主側からP.brasiliensisに対する非特異的宿主防御機構は雌の方が優れていることがあげられたため,本症における大きな性差は,菌側要因と宿主側要因の相乗的効果によるものと考えられた.

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