2006 年 33 巻 2 号 p. 221-227
アニサキス虫体が腹腔内に肉芽腫を形成した興味深い症例を経験したので報告する. 症例は24歳, 女性. 右下腹部痛を主訴に来院. 右下腹部に圧痛と反跳痛を認め, 腹部CTにて上行結腸の腹側に原因不明の腫瘤性病変を認めた. 超音波検査では急性虫垂炎の可能性が示唆されたが, 他疾患も否定できないため腹腔鏡下の手術を施行することとなった. 術中所見では横行結腸に3cm大の炎症性の肉芽腫と思われる病変の付着を認め, 手術はこの病変部の切除と虫垂切除で終了した. 病変部は糸状の物質を含んでおり後の病理検査にてこれがアニサキス虫体であることが判明した. 以上より, アニサキス虫体が消化管を穿孔し肉芽腫を形成した病態であると考えられた. 本症例では術前診断ができなかったが, 病理結果をもとに超音波所見を見直してみると, 断層画像は病変部の割面像の特徴をよく捉えていたことが判明した. アニサキス性の腹腔内肉芽腫は稀な病態であるが, 今後類似の症例に対しては超音波をもとにした術前診断が可能と思われた. またこういった術前診断に不確定要素がある場合腹腔鏡手術は有効な手段であった.