左室壁運動を評価するためには,左室を正しい断面で描出しなければならない.心尖部が真の心尖部になっておらず,左室の大きさを過小評価していることは多い.エコーベッドを用いたり,呼気時だけではなく吸気時にも撮像して,なるべく左室の長軸径が大きくなるようにする.短軸は乳頭筋レベルで観察を行い,両方の乳頭筋が均等に描出されているかを確認する.均等ではないと斜め振りの可能性あり,壁運動評価が正当にできない.短軸,及び心尖部からの長軸像で局所壁運動異常と心筋の性状を評価する.陳旧性心筋梗塞では,内膜側の輝度上昇,壁厚減少も重要な所見である.冠動脈支配領域に一致しない場合は,心サルコイドーシス,たこつぼ型心筋症などを考える.その際は,心電図も参考にする.左室収縮能評価は,Method of disks (MOD) 法で行う.これは,左室を20個の楕円柱に分割して体積を求める方法である.心エコーの機械でMODと表示されるため,modifyの略と誤解している人も多いが,これは誤用である.
目的:超音波断層法は原発性肺癌における胸膜浸潤の検出に有効であるが,超音波診断所見と肉眼的胸膜浸潤所見(PL)および組織学的胸膜浸潤所見(pl)の不一致の要因については十分な検討はされていない.本研究の目的はこれらの所見を比較検討し,不一致に影響を及ぼした因子を明らかにすることである.対象と方法:対象は2014年から2017年までに超音波ガイド下穿刺術後に手術が行われた原発性肺癌の患者35例.穿刺術前に胸部超音波による胸膜浸潤の程度を評価して超音波断層法による肺癌胸膜浸潤所見(uP)を決定し,PLおよびplと比較検討した.所見一致群,過大評価群,過小評価群に分けて各種要因を検討した.結果と考察:uPとPL,uPとpl,PLとplの一致率はそれぞれ34.3%,28.6%,54.3%だった.PLに対するuPの過大評価群では所見一致群と比較して間質性変化が多く(P=0.006),気腫性変化は少なかった(P=0.023).間質性変化を有する過大評価群では胸部CTにおける腫瘍周辺の胸膜不整が多く認められる傾向にあった(P=0.066).plに対するuPの過小評価群では肺尖部の腫瘍が多く(P=0.022),uP2の過大評価群では横隔膜面の腫瘍が多く認められた(P=0.024).結語:間質性変化や肺尖部,横隔膜面の腫瘍の存在は超音波断層法による胸膜浸潤の評価に影響しうることが明らかになった.
The patient was a Japanese male in his 70s who had previously been treated with an interferon preparation for chronic hepatitis C, but the treatment was ineffective. After edema appeared, computed tomography showed subcutaneous edema, pleural effusion, and ascites, and hepatic edema and ascites were initially suspected because of persistent hepatitis C virus (HCV) infection, thrombocytopenia, and a high FIB-4 index. Noninvasive testing (NIT), which included Mac2 binding protein glycosylation isomer (M2BPGi), ultrasound elastography, and congestion index of the portal vein, ruled out liver cirrhosis and hepatic ascites, and this case was ultimately considered to be TAFRO syndrome. The most common cause of ascites is liver cirrhosis, which is often treated by a hepatologist. Thus, it is important to objectively differentiate whether ascites is due to a hepatic cause using NIT. And since there have been no reports of HCV infection complicated by TAFRO syndrome, this case is rare and valuable.
症例は20歳代,女性.8年前から潰瘍性大腸炎の既往があり軽度の右下腹部痛を認めたため,定期検査も含めて超音波検査を施行した.虫垂の根部は径3 mmと正常径であったが盲端部に限局した長径25 mm,短径10 mmの腫大を認めた.腫大部の層構造は明瞭で粘膜面の不整や内腔の刷毛状エコー,石灰化は確認できなかった.血流シグナルは捉えられなかった.周囲脂肪織の炎症所見は目立たず腹水や腫大リンパ節は確認できなかった.CT/MRIでも同様の所見であり虫垂粘液嚢腫が疑われ外科手術を施行した.病理所見では組織学的に虫垂粘膜上皮下に泡沫状組織球の集簇とリンパ球浸潤からなる黄色肉芽腫性反応を認め,黄色肉芽腫性虫垂炎と診断された.特異的な所見がないことと,非常に稀な病態のため術前に診断することは困難であるが,腫瘍性病変以外で虫垂にこのような特殊な炎症が起こることがあるということを念頭にいれる必要性があると思われた.
遺伝性出血性末梢血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia:HHT)は常染色体優性遺伝の全身性血管疾患である.今回,限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia:FNH)を伴ったHHTの長期経過観察をしえた1例を報告する.60歳代女性.主訴はなし.幼少期より鼻出血を繰り返しており,他院にて肝内腫瘤が疑われ,2006年に当院紹介となった.家族鼻出血歴あり.入院時血液検査は肝炎ウイルスマーカー,腫瘍マーカー陰性であった.腹部超音波(ultrasonography:US)は,肝全域に著明な門脈,肝静脈の拡張,コイル状肝動脈管拡張,多発シャント像,および境界不明瞭な不整形腫瘤を多数認めた. 最大径腫瘤(S8)は,カラードプラにてspoke-wheel-pattern様シグナルを示した.ダイナミックCTでも同様の血管異常を認め,腫瘤は早期相で不均一に造影され,Wash outは認めなかった.腫瘍生検を実施しFNHの診断であった.2007年に最大腫瘤に対し,ペルフルブタン(ソナゾイド)造影検査(contrast-enhanced ultrasonography:CEUS検査)を実施し,早期相で内部不均一濃染を示し,後血管相defectを認めなかった.その後,1年ごとの画像検査では,血管病変に著変は認めなかったが,最大腫瘤はUSとGd-EOB-DTPA造影MRI(EOB-MRI)にて,徐々に縮小し,2015年に消失した.その後,EOB-MRIでは新規出現や縮小等,腫瘤の全体像を把握しえたが,USでは検出できなかった.しかし,2022年のUSで新たに腫瘤が確認され,Full focus機種でCEUS検査を行ったところ,Bモードで指摘できなかった腫瘤も観察しえた.多発FNHを伴うHHTの長期経過を観察しえた.CEUS検査,EOB-MRIは病態全体像の把握に有用である.
症例は58歳男性.心房細動に対するカテーテルアブレーション(radiofrequency catheter ablation:RFCA)後から食欲不振,体重減少(10 kg/2か月),繰り返す嘔吐を認め当科受診.CTで著明な胃拡張と十二指腸水平脚の部分的拡張および虚脱を認めた.十二指腸水平脚は上腸間膜動脈(superior mesenteric artery:SMA)と大動脈(aorta:Ao)により圧迫され,SMA症候群と診断した.体位変換を活用した超音波検査でSMA-Ao間の距離は,大きく変化し,十二指腸の圧迫は左側臥位で最も軽減された.入院の上,モサプリドクエン酸塩投与,分割食,食後左側臥位の指導により嘔吐は消失し,食事も全量摂取可能となり退院した.近年,SMA症候群の一因に,心房細動に対するRFCAが指摘されている.RFCAによる焼灼エネルギーが心臓外に放射され,胃周囲迷走神経叢の損傷により胃の蠕動機能障害が起こり,食思不振から体重減少ひいてはSMA症候群を生ずるとされる.本例では体位変換による超音波検査でSMA周囲腸管を観察したところ,左側臥位でSMAが大きく偏位するに伴い,十二指腸狭窄部が開放される状態をリアルタイムに観察できた.体位変換を活用した超音波検査は,SMA症候群の診断および最適な発症予防体位の同定に有用である.
今回我々は,術中に腹腔鏡用超音波検査を使用することで稀な傍尿道腫瘍と判断し治療した症例を経験したので報告する.症例は39歳女性,4経妊1経産,当科を受診する約1年前より頻尿を自覚していた.検診にて膀胱を圧排する骨盤内腫瘍を指摘され,精査加療目的に当科を紹介受診した.経腟超音波断層法検査とMRI検査で前腟壁内の尿道直下に直径約5 cm大の境界明瞭な腫瘤を認めた.頻尿の症状があり,腫瘍は増大傾向であるため摘出する方針とした.膀胱や尿道にも近接するため腹腔鏡補助下に腫瘍を摘出する方針とした.腹腔鏡下に腟壁から尿道付近まで前腟と膀胱とを剥離したが,腫瘍と腟壁に連続性がなく,術中に施行した腹腔鏡用超音波検査で剥離した膀胱周囲組織内に腫瘍が存在していた.腟由来ではなく傍尿道腫瘍であると判断し,尿道周囲操作が可能な経腟アプローチに切り替え腫瘍摘出に至った.病理組織検査では平滑筋腫であり悪性所見はなかった.今回の症例は術中に施行した腹腔鏡用超音波検査により傍尿道腫瘍と診断できた.腹腔鏡用超音波検査は腹腔内を観察するだけでなく比較的稀とされる腟内や傍尿道,膀胱周囲に存在する腫瘍同定にも有用である.