抄録
症例は70歳女性.2年前に原発性卵巣腫瘍に対して開腹下付属器摘出術を施行され,病理所見から卵巣カルチノイドと確定診断された.その頃より重症三尖弁逆流症が指摘されていたが,自覚症状がなかったため経過観察されていた.入院1ヵ月前より下肢浮腫増強があり,利尿剤を開始したが改善せず,全身浮腫のため入院となった.入院5年前の心エコー図では三尖弁逆流症,肺動脈弁逆流症ともにほとんど認められなかったが,入院時の心エコー図では三尖弁,肺動脈弁ともに強い肥厚と短縮,可動性の低下を伴い,重症三尖弁逆流症,重症肺動脈弁逆流症,右房・右室拡大を認めた.利尿剤を増量したが心不全のコントロールがつかず,入院30日目に三尖弁置換術を施行した.術後,一時は車椅子移乗まで改善したが,その後敗血性ショックを来して入院39日目に永眠された.手術所見および剖検所見では三尖弁弁葉および弁下組織は高度に肥厚し,かつ短縮,硬化所見あり,弁尖の可動性は高度に低下していた.肺動脈弁も同様の所見であった.病理検査ではいずれの弁尖にも筋繊維芽細胞,平滑筋細胞,粘液基質の沈着を認め,カルチノイドによる変化と診断された.今回我々は明らかな症状が発現した後に急速な経過で不幸な転帰をたどった1例を経験した.一次性三尖弁逆流は不可逆性であり,症状発現後は病状が比較的急速に悪化することもある.症状の発現に注意し,適切な時期に手術を検討する必要が示唆された.