2021 年 48 巻 2 号 p. 73-80
目的:本研究の目的は多方向からビーム軸上ストレインレート(aSR)計測を行い,左室心筋伸縮伝搬様式を可視化することである.対象と方法:同意を得た成人健常例20例および6例の追試験により検討を行った.スパーススキャンにより高フレームレートを実現して取得したRF信号に位相差トラッキング法を適用し高時間分解能aSR計測を行った.左室長軸断面およびアプローチを変え多方向から描出した左室短軸断面にてaSRを計測した.結果と考察:左室長軸断面において左室後壁では拡張後期から等容収縮期に心尖部で生じた収縮が心基部へと伝搬していくことが確認され,すなわち同時相における拡張と収縮の混在が示された.多方向からの左室短軸断面においては収縮期に心基部,中央部では時計回転の収縮伝搬および反時計回転の拡張伝搬が起こり,心尖部ではまず内膜側に収縮が生じ,次いで外膜側から再度内膜側へ起こる強い収縮が観察された.また反時計回転の収縮伝搬および時計回転の拡張伝搬が起こることが確認できた.これらの結果は,局所の心筋伸縮動態は不均一であり,本手法による刺激伝導系ならびに左室固有心筋における伸縮伝搬の可視化を示唆するものである.結論:高時間分解能aSR計測を多方向から行うことにより局所心筋の伸縮動態に加えて左室の広範囲な心筋伸縮動態の空間的・時間的な不均一性を可視化できることから,本法による心筋伸縮能評価は心臓ポンプ機能解明に有用な情報を与える.