日本看護倫理学会誌
Online ISSN : 2434-7361
日本看護倫理学会第14 回年次大会
尊厳を高める看護ケア:ケアの倫理のアプローチ
Chris GASTMANS八尋 道子宮内 信治小西 恵美子
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2022 年 14 巻 1 号 p. 59-70

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抄録

過去20年間の看護倫理の文献をふりかえると、顕著なことが2つ認められます。1つは、データ収集を基本とする実証研究が非常に多いいっぽう、思考を基本とする議論研究がとても少ないことです。もう1つは、議論研究であっても、生命倫理の4原則に依拠する議論が支配的で、看護ケアの重要な側面への関心が相対的に薄いことです。この傾向は今後も続くのでしょうか。私の講演は、この問題提起から出発し、看護実践の核はケアであること、ケアは患者・家族・医療者等の人々が関わりあいながら進むプロセスであること、したがって看護倫理の基盤はケアに根差す必要があることを述べます。そしてその視点に立って、看護倫理の枠組みの基本を提示します。

まず、看護ケアの重要な側面をなす次の3つを、看護倫理の枠組みの背景として位置付けます。すなわち、ケアに関係する人々(患者・家族・医療者等)が具体的に感じ・経験する「生きられた体験」、これら当時者が対話し解釈し理解を共有しあって患者本人のケアニードに対する適切な答えを見つけていく「対話的解釈的プロセス」、および、ケアする義務とよいケアを規定する「規範的基準」の3つです。その背景のもとに、倫理的な看護実践において常に配慮する必要のある主要概念として、「脆弱性」、「ケア」、「尊厳」の3つを特定します。この3つの概念に基づき、看護の倫理的な本質は、人間の「尊厳」を可能な限り維持、保護、促進するために、人間の「脆弱性」に対応する「ケア」を提供することである、と主張します。

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© 2022 日本看護倫理学会
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