日本腎臓病薬物療法学会誌
Online ISSN : 2189-8014
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症例報告
下痢を契機にタクロリムスの血中トラフ濃度が上昇し胸部症状が出現した腎移植レシピエントの1例
市川 裕平村上 穣田中 茂塚田 学荻原 宏美油井 信明池添 正哉石田 英樹田邉 一成
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2014 年 3 巻 3 号 p. 27-31

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抄録

患者は40歳代、男性。二次生体腎移植術を施行された。術後経過は良好で、腎機能の著明な改善を認めた。タクロリムス(tacrolimus:TAC)の血中トラフ濃度は術後6日目(postoperative day 6: POD6)には5.5 ng/mLであった。百日咳罹患者と接触したためミノサイクリン(minocycline: MINO)の予防内服を開始したところPOD7より1日5行程度の水様性下痢が出現し、POD10には11.3 ng/mLまで血中トラフ濃度が上昇した。MINOの内服中止により下痢が改善すると血中トラフ濃度は速やかに低下し、以後、5.5~6.1 ng/mLで良好に維持された。TACの血中トラフ濃度上昇時に洞性頻脈による一過性の動悸および胸痛が出現したが、腎機能の悪化は認められなかった。TACは難吸収性であるが、下痢出現時にはその吸収が亢進し、血中濃度が上昇することが報告されている。腎移植レシピエントは免疫抑制剤の副作用や抗菌薬投与による腸内細菌叢の変化あるいは腸管感染症など複数の要因により下痢をきたしやすい。TACを内服中の腎移植患者に下痢を認めた際には、TACの血中濃度上昇およびその副作用の出現に十分留意する必要があると考えられた。

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© 2014 一般社団法人 日本腎臓病薬物療法学会
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