日本鳥学会誌
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原著論文
本州におけるウグイスCettia diphoneに専門的に托卵するホトトギスCuculus poliocephalusの繁殖生態
内田 博
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2011 年 60 巻 1 号 p. 78-87

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抄録

埼玉県の標高約90mの丘陵と台地から成る地域の林でホトトギスの繁殖生態調査を行った.調査地ではホトトギスはウグイスだけに托卵を行っていた.宿主のウグイスの産卵は4月中旬から始まったが,ホトトギスは5月下旬に渡来して,6月初旬から托卵を始めた.ウグイスの全繁殖期を通した被托卵率は24%であったが,ホトトギスが托卵を始めた6月以降だけに限ると46%の高率になった.一方,ホトトギスの繁殖成功率は3%と低かった.調査地では高い捕食圧があり,ホトトギスの繁殖成功率の低さは,ウグイスの寄生卵の受け入れの拒否の結果ではなく,捕食に大きく影響を受けていた.ホトトギスの卵は赤色無斑で宿主のウグイスの卵に非常に良く似ているため,色彩では見分けられなかったが,卵サイズは宿主卵より大きかった.ホトトギス卵の孵化までの日数は平均で14日であり,宿主のウグイス卵より1から2日早く孵化した.ホトトギスの托卵行動は2例記録でき,托卵にかかった時間は18秒と19秒であった.宿主卵の捕食行動も記録できた.調査地ではウグイスの巣の卵が産卵期や抱卵期に1から数個減少することがあり,このような現象はホトトギスの捕食によるものと考えられた.ウグイスの巣からホトトギス卵だけが排除されることはなかった.巣が放棄される割合は托卵された巣で19%,されなかった巣で22%であった.ホトトギスは卵擬態の軍拡競争では,ウグイスに勝利していると考えられた.

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