2021 年 70 巻 2 号 p. 139-152
日本では冬鳥とみなされてきたジョウビタキ Phoenicurus auroreus が2010年6月に長野県富士見町で繁殖していることが発見された.その後,10年間観察を継続した結果,八ヶ岳周辺で累計137件の繁殖を確認した.岐阜県高山市では,2014年にさえずりを聞いてから,6年間観察を継続した結果,累計174件の繁殖を確認し,両地域で繁殖が継続・定着していた.両地域の繁殖状況を,周囲の環境,林縁からの距離,建物の人的利用頻度・目的,営巣場所の構造物,巣の地上高,標高など,多方面から比較した.その結果,八ヶ岳周辺では別荘・リゾートが,高山市では住宅地が,主な繁殖環境として利用されていた.両調査地とも,林地に近い場所で営巣していた.営巣場所は,すべて換気扇フードなどの人工物であり,外敵からの防衛に適した箱型や奥まった場所が多かった.ジョウビタキは,適度な都市化が進んでいる地域への順応性が高く,林縁に近い住宅地や緑被の多い都市部など,ヒトの生活に近い地域への今後の進出が予想される.