再導入により野外での個体数が増えつつある絶滅危惧種のコウノトリCiconia boycianaについて,保全の観点からなわばりと行動圏に着目し,給餌に依存しない繁殖ペアの行動データを20か月間集めた.なわばりについては,カーネル法による行動圏の推定を行い,ペア雌雄の「重複する行動圏」と「他個体との対戦位置」を関連付けて,最も妥当な範囲を検討した.その結果,雌雄で重複する行動圏の密度40%,面積65.82 haの範囲が調査対象ペアのなわばりであると結論付けられた.また,直接対戦(つつき合い,追い払い)はオスが主体的に行っていることが明らかになったが,非直接対戦(クラッタリングによる威嚇)は雌雄ともに同程度行っていた.行動圏の面積については,“2017–2018非繁殖期”から“2019造巣期と交尾期”までの間,ペア雌雄の変化は同調したが,“2019抱卵期”と“2019育雛前期”は乖離し,オスがなわばり周辺に留まっていたのに対して,メスはなわばり外も利用していた.このことは,雌雄で保全すべきエリアが異なる可能性を示唆している.