小笠原諸島の南鳥島は国内で唯一太平洋プレート上に成立した日本最東端の孤島である.その生物地理学的な特殊性から,南鳥島は日本の生物多様性を維持する上で重要な存在となっている.この島では1900年頃には11種の海鳥が繁殖していたが,乱獲や環境改変により局所絶滅が生じ,2007年にはアカオネッタイチョウPhaethon rubricauda,クロアジサシAnous stolidus,セグロアジサシOnychoprion fuscatusの3種の繁殖しか確認されていない.そこで近年の海鳥相の変化を把握するため2022年5月に調査を行ったところ,これら3種に加えてトクサバモクマオウCasuarina equisetifoliaの樹上で139巣を含むヒメクロアジサシA. stolidusの集団繁殖とシロアジサシGygis albaの雛が新たに確認された.これらはともに南鳥島における120年ぶりの繁殖記録となる.前者は集団繁殖地として日本最大であり,後者は現在の日本唯一の繁殖記録である.また,国内の他地域では記録されていないクロアジサシの樹上営巣がトクサバモクマオウ樹上で確認された.同種の樹上では樹上営巣性のアカアシカツオドリSula sulaの約130個体を含む集団が確認され,若鳥による巣材運びも記録された.一方で,樹上営巣しない海鳥については新たな繁殖は確認されなかった.トクサバモクマオウは1963年に植栽された外来種で,その後に分布を拡大していることから,近年の海鳥相の変化はトクサバモクマオウ林の発達が引き金となっていると考えられる.この樹種は侵略的外来種であるため,その駆除と海鳥の保全のバランスを検討する必要がある.