日本鳥学会誌
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カササギ Pica pica sericea の営巣場所の特徴
武石 全慈江口 和洋
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1994 年 42 巻 2 号 p. 53-59,78

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抄録

営巣場所の質と特定の営巣場所に対する鳥類の選好性は,その種の分布にも関与していると考えられる.また,営巣場所の種類間での選好性の違いは繁殖成功度の違いに基づくとも考えられる.通常,カササギは樹上に大きく重たい(直径60cm,重さ4kgほど)球状の巣をつくるので,一定以上の強度を持つことが営巣場所の条件となる,1979年から1983年にかけて,佐賀市南部のカササギ高密度地域において,カササギの営巣場所の特性と繁殖成功度を調査した.調査地は水田を主体とした農耕地で,集落が散在している.調査上の制約から繁殖成功度については樹木の巣についてのみ調べた.
巣の密度は集落内(1.11/ha)で高く,集落外の耕作地(0.07/ha)で低かった,しかし,両ハビタットの巣密度の比率は営巣可能な場所の密度比に従っており,集落内へ選択的に営巣する傾向は見られなかった.集落内で巣の密度が高かったのは単に営巣可能場所の密度が高かったためである.集落外では集落内に比べて営巣可能場所に占める樹木の割合が低く,ほとんどが電柱であった.
調査地域内では電柱への営巣が最も多く(46%),エノキ Celtis sinensis (16%),カキ Diospyros kaki (9%),クス Cinnamomum camphora (6%),クロマツ Pinus thunbergii (4%)などが主な営巣樹種であった.電柱対樹木,常緑樹対落葉樹など,いずれへの有意な選択傾向もみられなかった.エノキ,クスなど利用可能度から期待しうる以上に営巣がみられた樹種もあったが,全体としての有意な樹種の選択傾向は見られなかった.主要樹種のうち,繁殖成功度(成功巣の割合)はエノキ(82%)やクス(7.3%)に比べて,カキ(52%)に造られた巣で低かった.繁殖開始は樹高の高い木ほど早く,繁殖成功度も高かった.平均樹高は成功巣で11.0m,失敗巣で9.9mであった.営巣木に占める樹高8m以上の高木の割合は,集落内で高く(118巣中109巣),集落外で低かった(13巣中7巣).
カササギは利用可能度の高い樹種や電柱に多く営巣し,特定の営巣場所への選好性はなかった.巣の隠ぺい度が高い常緑樹が特に選好される傾向にはなく,隠ぺい度の違いは営巣場所の選択に影響しないと考えられる.樹高の高い木への選好傾向は存在する.カキ,モチ,ヤナギなどは樹高が低く,エノキ,クスなどでは高かった.特定の樹種で繁殖成功度が低かったのは,樹高が低かったためだと思われる.高い木は集落外ではしばしば不足している.営巣場所への低い選好性がカササギの新しい生息地への進出定着と最近の分布の拡大を促進しているものと考えられる.

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