本稿は、科学技術政策の評価に関する総説である。科学技術政策の評価の困難性・複雑性とその要因を、多様な主体と視点の下で社会の各断面で評価が行われる政策領域の特質に求め、①科学技術政策の政策目標の多重的な構造、②科学技術と社会における評価の多元的な関係、③科学技術の評価に用いられる評価手法の多様性、の観点から論じる。科学技術の評価で内在する評価理論上の課題を、成果の費用便益が財務的利益として費消できない非金融資産性、教訓導出を目的とする前向きの評価と政策効果を検証する後ろ向きの評価との間で評価への誘因が異なることなど、の既知の論点を整理する。これにより、日本では政策上の立場の異なる法人等を含む各府省の業務の現場における実施状況を対象とした行政評価が制度的に分立し、制度間の評価で意図せざる不整合を生み、複数府省にまたがる科学技術政策全体での政策評価が阻害される問題の構造を明らかにする。