2024 年 24 巻 1 号 p. 7-22
近年、医療分野、教育分野、国際開発分野等においてエビデンスに関する議論が展開され、評価研究および評価実践においてもエビデンスをめぐる議論の多層化が起こっている。しかしながら、共通理解や共通項の認識が進んでいるとは言い難い。本稿ではエビデンスの多面性に関する考察を系統的に行う方法論が確立していないという問題提起をもとに、エビデンスの有用性、特に信頼性(credibility)および活用可能性(actionability)を中心に置いた議論を展開する。前半では、科学論における基本的対立、評価学における「パラダイム・ウォー」におけるエビデンスの扱い、研究者・評価者の世界観について解説する。後半では、エビデンスの活用可能性を定める多面的要素について四つの側面を紹介し、活用可能性の高いエビデンスの抽出の鍵となる五つの文脈を提示する。さらに、活用可能性を担保する二つの実践例を挙げ、評価の妥当性や評価者の役割とエビデンスとの関連についてあらためて課題を提示する。