抄録
外務省はODA評価の一貫として日本の構造調整借款について初めて包括的なレビューを行った。1986年、構造調整借款の開始以来、約20年間で9, 767億円が投じられている。本論では開始時期の政策背景を探ろうとした。そこでみえてきたのは、日米貿易摩擦に取り組む日本政府の葛藤と資金環流措置であった。当時、構造調整借款は総額650億ドルの資金環流措置のパッケージのひとつで、足の速い援助モダリティであることから環流目的に適しているとして選択されたのである。そこで問われるのは、日米貿易摩擦解消のための資金還流という目的を背負いながらもODAとして構造調整借款を選択したことの妥当性であろう。また、ODA政策を超えて政治的判断に直結した案件にかかわる政策評価の対象をどの範囲までに及んで考えるべきなのか。本論は、政策評価の課題についても問題提起した。