2010 年 22 巻 2 号 p. 154-164
長く教育学研究のメインストリームは学校であり,家族というテーマは,必ずしも市民権を得てこなかった。アリエスの『子供の誕生』(1960=1980)は,日本語で翻訳されるやいなや,非常に大きな反響を得た。ちょうど,子どもの問題が社会問題化した時期とも重なり,この著作は,従来の子ども理解の相対化のための理論的根拠を与えるものとなった。アリエス以降,自明のものであった近代的子ども観,近代家族,近代学校が問い直され,教育学の在り方それ自体に対する問題提起がなされた。同時に,子ども問題への社会関心の高まりに呼応して,家族をターゲットとした教育政策も次々と打ち出されるようになった。教育学研究においても,教育政策においても,家族はその重要なテーマとして位置づけられてきた。しかし,家族や学校への研究上・政策上の関心の高まりは,同時にそれらへのバッシングと結びついてきた側面があったことは否めないのではないだろうか。