2021 年 33 巻 2 号 p. 212-222
本稿の問題意識は,家族の歴史変動を把握する視点を与えた「近代家族論」を重視しつつも,なお主たる稼ぎ手である夫と専業主婦との性別分業に特徴づけられる近代家族モデルが全国に波及したとの仮説は検証されていないこと,既婚女性の雇用労働者化の展開が同時にあったことを見落とすべきではないというところにある.そこで「近代家族論」の対極にある地域をとりあげ,女性の就労と家族との関係を問い直そうとする.そのために,その代表的地域として織物産地に着目し,高度成長期をはさむ時期に,結婚・出産・子育てをしながら継続的に就労してきた織物業女性と女性教員のインタビュー調査データを用いる.両者の比較検討を通じて,既婚女性が働くことに関わる地域規範の影響力が家族にいかに現れたのかを明らかにするとともに,個々人の働く意味の認識,その自己調達がいかになされていたかを,彼女たちの給料のゆくえを把握することから考察する.