家族社会学研究
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33 巻, 2 号
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巻頭エッセイ
投稿論文
  • 夏 天
    2021 年 33 巻 2 号 p. 91-103
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    本研究は,家族における親の長期不在の形態の一つとして,中国における親の「外出労働」を取り上げ,(1)親の「外出労働」による不在は子どもの大学進学希望と関連するのか,(2)その関連はペアレンティング仮説によって説明されるのかを検討する.中国の全国調査データ「China Family Panel Studies(CFPS)2010」を分析した結果から,以下の知見が得られた.第1に,男子においてのみ,両親ともに不在の場合に本人の大学進学希望が顕著に低くなる傾向が示された.その傾向は主養育者が祖父母であること,男女で向社会的な規範の内面化度に差があることなどに起因すると考えられる.第2に,主養育者の教育的関与は,親の不在状況と独立に子どもの大学進学希望と正の関連を示したが,親の不在の負の効果を説明するペアレンティング仮説としての媒介効果は支持されなかった.

  • 荒牧 草平
    2021 年 33 巻 2 号 p. 104-116
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    家族社会学における育児ネットワーク研究は,主に,「育児期」の「母親」が持つネットワークの「支援」機能に焦点をあててきた.しかし,子どもの成長とともに,どのように教育するかが次第に重要性を増すことを考慮すれば,ネットワークの「参照」機能を解明することも重要な検討課題と言える.また,共働き家庭の増加により,父親を対象とした研究の必要性も高まっている.そこで本稿では,「育児期から青年期」の子どもを持つ「父親」と「母親」をともに対象とし,ネットワークの「参照」が養育態度に与える影響について検討した.NFRJ18データの分析により,主に以下のことが明らかとなった.1)男女とも配偶者を参照することが受容的態度につながる.2)女性の場合,親族や子どもの友だちの保護者を参照することが拒否的態度につながる.3)こうした男女差は,子育て関与の性差を反映していることが示唆される.

  • 須永 大智
    2021 年 33 巻 2 号 p. 117-129
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    本稿では,親の教育アスピレーションと教育期待のそれぞれに,階層差が生じているかを検証する.近年の国内の実証研究は,教育機会の不平等が生じる一つの経路として,親の教育アスピレーション・教育期待の存在を指摘する.一方,教育アスピレーションと教育期待は強く関連しているものの,両者が異なる概念であることは早くから指摘されてきた.それにもかかわらず,両者を明示的に区別した研究は限られ,親の教育アスピレーションと教育期待における独自の階層差は検証されていない.そこで相互依存モデルから両者の関連を考慮したうえで,親の大学進学希望と大学進学期待に対する階層の効果がみられるかを検証する.分析の結果,親の大学進学希望と大学進学期待は,双方とも親学歴・世帯収入・子ども数と独自に関連していた.ここから,親の教育アスピレーション・教育期待における階層差は,願望と現実的評価という二つの側面から生じているといえる.

  • 額賀 美紗子, 藤田 結子
    2021 年 33 巻 2 号 p. 130-143
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    本研究は,ぺアレントクラシー下での母親の教育責任の増大に注目し,働く母親の家庭教育をめぐる葛藤と家庭教育を通じた格差形成を明らかにする.この目的のため,就学前の子どもをもつ働く母親に半構造化インタビューを行い,彼女たちが家庭教育をどのように捉え,父親とどのように分担しているのかを階層視点から検討した.42名を対象とした分析から,「教育する家族」の子育てが,①父母協働志向の〈親が導く子育て〉,②母親に偏った〈親が導く子育て〉,③父母協働志向の〈子どもに任せる子育て〉,④母親に偏った〈子どもに任せる子育て〉に分化していることを示した.このモデルからは,子育て理念と父母のかかわりの違いが組み合わさることで,家庭教育を通じた大きな格差が就学前から生じている可能性が示唆された.また,働く母親の葛藤が,「親が導く」子育ての圧力と家庭教育への父親の関与の少なさによって生じていることも明らかになった.

  • 稲葉 昭英
    2021 年 33 巻 2 号 p. 144-156
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    貧困・低所得の定位家族で育つことが子どもの内面に与える影響を検討するために,等価世帯所得によって定義される「世帯の貧困」と子ども(中学3年生)のメンタルヘルス(心理的ディストレス)との関連を計量的に検討する.内閣府「親と子の生活意識に関する調査」(2011年)を用いて,対象を有配偶世帯に限定して分析を行った結果,(1)男子では貧困層にディストレスが高い傾向は示されなかったが,女子では貧困層で最も高いディストレスが示された.(2)女子に見られるそうした貧困とディストレスの関連は親子関係の悪さや,親や金のことでの悩み,といった家族問題の存在によって大きく媒介されていた.この結果は貧困世帯において女子に差別的な取り扱いがあること,および女子は男子よりも家族の問題を敏感に問題化する,という二つの側面から解釈がなされた.

  • 李 雯雯, 筒井 淳也
    2021 年 33 巻 2 号 p. 157-170
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    本研究は,中国全体をカバーする中国家族パネル研究(CFPS)の2016年の調査データを用いて,都市部における成人子とその親との世代間関係におけるジェンダー差を分析するものである.従来の同分野の研究が異なった世帯に属する男女の比較を行うものであったのに対して,本研究では世帯単位の調査であるCFPSを用いることで,直接に同一世帯に属する夫婦間の差を用いて検証することができる.分析の結果,夫方の親との同居割合は,妻方の同居割合の5倍以上であることがわかった.さらに,世代間関係のジェンダー差は関係の内容に応じて異なることがわかった.家事援助やケアは夫方に,接触頻度は妻方に偏っている.夫婦の学歴差は世代間関係に独特な影響を持つことが示された.すなわち,妻の相対的な高学歴は世代間関係のジェンダー差をより平等にしており,妻の資源へのアクセスが夫婦間の均等な世代間関係に寄与していることが示唆された.

特集 産業・地域から家族と労働をとらえなおす̶新たな実証研究の可能性
  • 末盛 慶
    2021 年 33 巻 2 号 p. 171-176
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    本特集は,特定の産業に着目して,人びとが地域の中で家族生活と労働とをどのように形作ってきたのか,その実態とプロセスを明らかにすることを目的としたものである.本稿では理論と方法という視点から本特集を位置づける試論を行う.家族社会学の理論に関しては北米において長く議論の蓄積がある.しかし,そこで一般的に家族研究に援用される社会学理論とは異なる理論的アイデアが今回の特集論文に通底している可能性について議論する.本特集は,いずれの論文も特定の地域を取り上げた研究となっている.方法論的に位置づけるならば事例研究に入ると思われる.本稿の後半では事例研究をめぐる近年の状況について報告する.最後に,本特集が今後の家族社会学に与えるインパクトについてふれる.

  • 嶋﨑 尚子
    2021 年 33 巻 2 号 p. 177-182
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    本特集では,特定産業に着目して,人びとが地域のなかで,家族生活と労働に主体的に取り組む実態を観察する方法を検討する.われわれは,高度成長期に,多くの構造転換・移転と個別の移動が発生し,社会の分岐が深刻化し,それが現代社会の階層構造の原点であると考えている.本特集では,農業,紡績業,石炭産業の3産業を取り上げ,地域社会における労働者とその家族の動態を検討する.いわば実態面から日本型近代家族を問う作業である.これまで地域差や階層差という説明にとどまってきた家族研究の隘路への挑戦でもある.皮肉なことに,2020年に発生したコロナ禍は,「エッセンシャルワーカー」「不要不急」の識別によって,都市においても,産業特性が人びとの家族と労働すなわち「愛することと働くこと」を強く規定することを露呈した.本特集での検討は現代日本における諸問題の源流を把握する作業である.

  • 前田 尚子
    2021 年 33 巻 2 号 p. 183-193
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    本稿では,1930年代の都市近郊農家における世帯経済と労働配分の動態的分析を行う.そのために利用するのは,福岡県農会が1931年から41年にかけて実施した「農家経済調査」データである.労働力の「充実期」「逼迫期」「縮小期」にある13世帯の事例分析を行い,生産,消費,労働供給の単位である農家が市場経済に対応するために講じた家族戦略を検討した.その結果,(1)ライフサイクル段階によって家族戦略は異なる様相を示すこと,(2)いずれのライフサイクル段階においても,北九州工業地帯に隣接し,男性の地域労働市場が広く展開していたことが家族戦略の内容に影響を与えていることが明らかとなった.

  • 嶋﨑 尚子
    2021 年 33 巻 2 号 p. 194-203
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    本論では,産業のあり方が労働者の働き方と家族の生活に直接に関連する動態を概観する.具体的には,石炭産業の開発・発展・成熟・衰退というライフサイクルにおける技術革新と,それに呼応した採炭方法ならびに現場作業形態の変更と,労働者家族に焦点をあてる.石炭産業の発展期・最盛期に労働者家族は,炭鉱コミュニティの場や組合・主婦会活動をとおして,生活維持とより豊かな生活を目指して,能動的に産業に関与し続けた.過酷な地下労働を三交代・1週間ごとのシフトで担うという労働形態は,家族の生活時間に多大な影響をおよぼした.労働力の再生産を最優先する生活規範に照らして,性別役割分業は,必然的な選択であった.しかし産業が衰退局面に入ると,こうした体制の維持は困難になり,家族は種々の対応を強いられた.最終盤の炭鉱労働は大規模に機械化された.そこには固定給を得て,持家から出勤する製造業ブルーカラー労働者の姿があった.

  • 笠原 良太
    2021 年 33 巻 2 号 p. 204-211
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    本論の目的は,北海道内大手炭鉱を対象に,産業衰退期における労働者子弟の進路選択過程を,企業ならびに家族に注目して描出し,炭鉱における労働と生活の世代間継承の実態を明らかにすることである.本論では,会社資料ならびにインタビュー・データを利用する.1950年代後半以降,国内の石炭産業は衰退したが,大手炭鉱各社は,産業の生き残りをかけて,従業員子弟を次世代の労働力として養成する鉱業学校を展開した.子どもは,家族の状況や特性を踏まえ,高校または鉱業学校への進学を選択した.家族のニーズを優先的に配慮して鉱業学校に進学した子どもは葛藤を抱えたが,鉱業学校を出た経験を活かして中堅技術者となり,石炭産業の最終局面を担った.産業・地域特性を据えた子どもの進路選択研究は,産業の衰退に応じて世代間継承をおこなう家族の動態的特性を明らかにするうえで重要である.

  • 木本 喜美子
    2021 年 33 巻 2 号 p. 212-222
    発行日: 2021/10/31
    公開日: 2021/11/17
    ジャーナル フリー

    本稿の問題意識は,家族の歴史変動を把握する視点を与えた「近代家族論」を重視しつつも,なお主たる稼ぎ手である夫と専業主婦との性別分業に特徴づけられる近代家族モデルが全国に波及したとの仮説は検証されていないこと,既婚女性の雇用労働者化の展開が同時にあったことを見落とすべきではないというところにある.そこで「近代家族論」の対極にある地域をとりあげ,女性の就労と家族との関係を問い直そうとする.そのために,その代表的地域として織物産地に着目し,高度成長期をはさむ時期に,結婚・出産・子育てをしながら継続的に就労してきた織物業女性と女性教員のインタビュー調査データを用いる.両者の比較検討を通じて,既婚女性が働くことに関わる地域規範の影響力が家族にいかに現れたのかを明らかにするとともに,個々人の働く意味の認識,その自己調達がいかになされていたかを,彼女たちの給料のゆくえを把握することから考察する.

NFRJ(全国家族調査)コーナー
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