1999 年 11 巻 11 号 p. 59-69
家族社会学において、行為者としての個人が認識し、解釈する「家族」に注目した、「主観的家族論」と呼ばれる研究が提起されている。しかしながらこれを捉える実証的な試みは、主に方法論的な問題から主観的家族論の視角を十分に生かしたものとはいえなかった。本稿の目的は、生活史法を取り入れることを提起し、主観的家族論の研究枠組みを援用して全身性障害者の捉える「家族」を描くことである。彼らの「語り」から個人の捉える「家族」が、時間的経過や何らかの契機により常に変更されていること、さらに社会的なリアリティ定義と個人的なリアリティ定義が相互に浸透しあい「家族」というリアリティがつくられていることが明らかになった。主観的家族論の視角は「家族」をめぐる力関係 (諸利害の付置状況) を示すための有効な手段となりうるだろう。