家族社会学研究
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妻たちの生活ストレスとサポート関係
西村 純子
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2000 年 12 巻 1 号 p. 42

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抄録
本書はストレス論とソーシャル・サポートの観点から、大都市近郊 (調布市) と地方都市 (長野市) に暮らす30代を中心とする有配偶女性を対象として行われた調査をまとめたものである。
構成は、まず序章で分析視角と調査の概要が述べられたあと、前半の1章から5章では調布および長野データについてストレス論の観点から分析が行われる。後半の6章から8章では家族内外の関係構造について、調布・長野両データを用いて、6章では夫婦間の性別役割分業の実態が、7章・8章では妻のもつ援助ネットワークと夫婦関係のあり方との関連が分析され、終章で結論が述べられる。
終章でも触れられているように、このような「地道」な社会調査は、新しい兆候を発見することよりも一般的傾向を把握することに強みを発揮する。このことは裏を返せば、社会調査 (のとくに量的調査) に対してある種の「退屈」なイメージを付与することになっているのかもしれない。そのような社会調査の「おもしろみ」とはどこにあるのか。それはひとつには我々の「常識」をデータによって覆すことにあるといえる。その意味で本書では、育児期の常雇女性が役割過重で悩んでいるというイメージや専業主婦が疎外感を感じストレス状況におかれているというイメージ、あるいは子どもが1人だけの時期よりも、より人手が必要な子どもが2人以上になってからの時期のほうが父親はより多く育児を行うだろうとか、地方都市よりも大都市圏の夫婦のほうが、夫婦間の情緒的な支え合いや家事分業の平等化も「進んでいる」だろう、といった日常生活における我々の直観や常識的イメージを覆すような知見が見出されており、そこには社会調査のおもしろさが十分に発揮されている。
また本書の中心をなすストレス論とソーシャル・サポートというアプローチは、個人の心理状態という最も「個人」的な部分に焦点を当て、それがいかなる社会関係と関連をもつかを明らかにする。本書はそのようなアプローチによる分析を通して、育児を優先させ、誰もがそれにあわせて生活を構造化しているという日本社会の根強いジェンダー構造を浮き彫りにしている。本書を読み進めながら読者は、個人の心理状態を基点に社会の構造を解明する、つまり「個人」を通して「社会」を読み解くという社、会学的実践を追体験することができるだろう。その意味でも本書は、実証的な社会学的研究のひとつのあり方を示しうる良書となっている。
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