家族社会学研究
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虐待の物語と体験の狭間
ナラティヴ・セラピーにおける物語化の再検討
和泉 広恵
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2001 年 12 巻 12-2 号 p. 211-222

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抄録

近年、家族や子どもの虐待の研究領域において人々の「語り」が注目を集めている。臨床社会学では、社会構成主義の理論を背景にもつナラティヴ・セラピーが提唱されつつある。ナラティヴ・セラピーは、「語り」によって新たな人生の物語が構成されることの臨床的効果を主張する。その一方で、ナラティヴ・セラピーの物語モデルのなかでは物語化されない「語り」自体が論じられることはない。本稿ではある母親による育児の「語り」を、ストーリーの構成と虐待場面の語りより分析する。この分析を通して、ナラティヴ・セラピーによって曖昧にされてきた「語り」と「物語化」の区別が明らかとなる。また、「物語化」と関連するような子どもの行為の意味や関係性へのとらわれが育児において虐待を促す可能性をもつ、ということが示される。これらの指摘は、経験の物語化の異なる一面を提示し、語りをとらえるうえで新たな視点を加えることを示唆する。

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