2021 年 62 巻 2 号 p. 65-75
香味に新たな特徴をもつ清酒を開発するため,植物から野生酵母を分離した.26S rDNA D1/D2領域とITS1-5.8S rDNA-ITS2領域の塩基配列の解析より,6株がSaccharomyces cerevisiaeと同定された.遺伝子解析および生理学的試験の結果から,NKY32,NKY362,NKY392,NKY2024の4株は清酒酵母タイプ,NKY1488とNKY1945の2株は清酒酵母と異なるタイプと判断された.分離酵母6株を用いた総米3 kgの小仕込試験の結果,それらのアルコール発酵能は清酒酵母K701と同程度であった.NKY1488とNKY1945の製成酒には,高い酸度,低いアミノ酸度,高い酢酸濃度という特徴があった.これらの結果から,分離酵母6株の清酒製造現場での実用化の可能性とNKY1488とNKY1945の特徴ある醸造特性を見出した.NKY1488を用いた総米500 kgの実地醸造試験において,もろみ初期で発酵の遅れは見受けられず,特別な製造方法を用いずに清酒を製造できた.製成酒は有機酸組成に特色があり,官能的に花様・香辛料様の香りおよび酸味に特徴があった.これらの結果より,NKY1488の清酒酵母としての実用性が確認できた.