音楽教育学
Online ISSN : 2424-1644
Print ISSN : 0289-6907
ISSN-L : 0289-6907
研究報告
社会制度としての音楽教育プロジェクト
─ ドイツにおける“JeKits (Jedem Kind Instrumente, Tanzen und Singen)”の意義 ─
清水 久莉子
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 50 巻 2 号 p. 24-34

詳細
抄録

 本論文は, 文化的な格差とその再生産を抑制するための社会制度が, 音楽教育の分野でいかにありうるかという着眼から, 学童期の子どもへの音楽的経験を組織的, 継続的に提供するドイツでの事例を記述している。すなわち, ノルトライン=ヴェストファーレン州全土に及ぶ, JeKits (「すべての子どもに楽器, ダンス, 歌を」) という音楽教育プロジェクトは, 21世紀初頭から約15年間にわたって行われ, 現在, 約1,000校の基礎学校 (初等学校) とおよそ8万人の子どもたちに, 鑑賞に留まらず演奏という主体的な音楽活動に廉価で参加できる場を実現している。それは州政府, 初等学校, 公立音楽学校, これらを結ぶJeKits財団に支えられた, 政治的文脈と財政的・教育上の資源に裏打ちされる社会制度と呼ぶべきものであり, 音楽教育を通じた社会改革, あるいは公的制度や組織間の連携と協働 (「チームとしての音楽教育」) としてさらに注目すべき動向である。

著者関連情報
© 2021 日本音楽教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top