本研究は, 藤井清水 (1889-1944) の日本旋律論に注目して, その内容の再検討を小泉文夫のテトラコルド理論の視点から行い, それをふまえて藤井の童謡作品を分析することによって, その音楽的特徴および日本的音感覚の表現と和洋折衷の様相について明らかにすることを目的とした。藤井の童謡は, 日本の伝統的な音感覚の強い楽曲では, 陽旋法の音の並びを用い, その中に含まれるテトラコルドと核音の音の動きを使った日本的音感覚の表現と, 伴奏が表わす西洋音楽の調性感とが巧みに接合した和洋折衷の表現となっている。また, 民謡の終止音に多様性があることをふまえ, 童謡作品においても第5音終止等を表現として使っている。さらに伴奏の特徴として音階音の第3音と第6音を変化させて用いる例が見られ, これはテトラコルドの中間音が動くことによる音の変化と伴奏の調性が呼応しあい, 結果として楽曲の調性の確定をあいまいにする効果がもたらされている。