抄録
症例の概要:患者は40 歳代半ばの男性であった.2 か月前から右側舌に灼熱感に近い痺れを自覚し,紹介により,歯科医師と精神科医師でチーム医療を行っている当リエゾン外来を受診した.紹介元の口腔外科医師は,CT検査で異常所見が認められなかったことと,患者が強い心理社会的ストレスを持っていたことから,当外来への紹介が有益で望ましいと判断した.当チームでは,患者のストレスがすでに消失し,抑うつも認められなくなっていたにもかかわらず口腔内の症状が継続していたので,器質疾患による三叉神経障害の可能性を再検討するため頭部MRI を撮影した.MRIの画像から,三叉神経障害を起こしうる脳器質病変が発見され,神経内科に紹介したところ,何らかの脳器質病変による右三叉神経感覚鈍麻と異常感覚を呈する三叉神経障害と診断された.オリゴクローナルバンドは陰性だったが,臨床症状の空間的・時間的多発性から多発性硬化症の可能性は否定できず,神経内科で経過観察中である.
考察:痛み・痺れは自覚的訴えであるため,診断には医療面接から得られる病歴聴取と適切な検査が極めて重要である.本症例は強い心理社会的要因の存在から診断に苦慮したが,頭部MRI を撮影,脳器質病変を発見した.
結論:心理社会的要因が関与した舌痛の疑いと診断された症例を当チームで連携協議し,脳器質病変の発見につないだ.本症例は日常臨床において示唆に富み貴重と考え報告した.