抄録
症例の概要:患者は,59歳の男性で摂食開始時に生じる左側の下顎部から外耳後方部にかけての疼痛と食後の激痛を主訴に来院した.摂食開始時の疼痛は,最初の一口目で出現し,我慢して咀嚼を継続していると暫次軽減した.しかし,食後にも激痛が生じ,10分間程度持続するものであった.咀嚼筋群には両側ともに圧痛は認めず,神経学的異常所見も認められなかった.左側耳下腺相当部に圧痛はあるが腫脹は認めなかった.左側耳下腺ステノン管開口部からの唾液流出は少なかった.その他口腔内外において異常所見は認めなかった.各種画像検査において異常所見を認めなかったが,血液検査において血糖が極めて高値を示した.糖尿病内科へ紹介を行い,食事療法開始後から空腹時血糖値は下降を認めた.空腹時血糖値の改善と時間的経過を同じくして疼痛は軽快していた.初診の約1か月後には摂食時痛は大幅に改善し,食後疼痛は消失していた.現在まで痛みの再燃は生じていない.
考察:本症例では,糖尿病治療開始後に,食事開始時の疼痛は大幅に改善し,食後激痛は消失していた.特発性FBSは糖尿病との関連性が示唆されているが,今回の症例を経験したことで,特発性FBSの痛みに血糖値が強く関与する可能性が示された.
結論:特発性FBSを診断する際には,糖尿病の既往や血液検査結果を確認する必要性があると考えられる.