1992 年 9 巻 1 号 p. 1_10-1_26
近年,データベースの研究分野では,演繹データベースとオブジェクト指向データベースに関する研究が盛んに行なわれている.演繹データベースは一階述語論理にもとづいた演繹機構を備え,強力な数学的基盤が確立されているが,実世界のデータのモデリング能力の限界が指摘されている.一方,オブジェクト指向データモデルは,対象となるデータの複合的構成や属性値の継承などの現実世界の対象のもつ性質を有効にとらえることを主な目的の一つとしており,関係データモデルに代わる新しいデータモデルとして注目されてはいるが,理論的基盤は充分に確立されていない.本稿では,これらの双方の利点を発展的に融合する項表現の構築を試みる.まず,型と実体の区別をなくしたうえで,オブジェクトやその属性値をDOT (Deductive and Object-oriented Term representation)式を用いて表現する.次に,それらの間の関係を,IS-A関係として表す.このようにして,従来,簡潔には記述するのが困難であったさまざまなパターンをもつ属性値の継承や,型の属性値に関して記述される属性値制約の条件が,ともに,IS-A関係の継承として取り扱えることを示す.また,これらの関係を記述するための項表現を提案し,その項により表現される意味論を完備束上の順序構造を用いて論ずる.