抄録
目的:神経障害性疼痛の治療では,薬物療法が主たるものである.しかし,その効果が限定的である場合や,効果が認められない場合もある.そこで,現在使用されている薬剤とは作用機序の異なる新たな治療薬が求められている.ドパミン神経系が関与する疼痛制御機構が存在することが示唆されている.ドパミン神経系が神経障害性疼痛を制御する可能性を検討するため,これまでの知見を交えて解説することを目的とした.
研究の選択:2022年10月9日に開催された,第27回日本口腔顔面痛学会学術大会基礎シンポジウム「歯科麻酔医の痛み研究」内の演題「ドパミン神経による口腔顔面領域の神経障害性疼痛の抑制」の発表内容に基づいた.
結果:近年の研究の結果,腹側被蓋野や側坐核等で構成される中脳辺縁系が神経障害性疼痛と関連を持つことが神経障害性疼痛モデル動物を用いた実験から明らかとなってきた.また,ドパミン神経核の1つである視床下部A11細胞群も,神経障害性疼痛に関与することがわかってきた.また,神経障害性疼痛では,ドパミン受容体の発現や機能に変化が生じる可能性が示された.
結論:ドパミン神経が,顎顔面口腔領域の神経障害性疼痛にも関与することが徐々に明らかになってきた.ドパミン神経機構が治療のターゲットになり,それに介入することが痛みを制御するための選択肢となる可能性が示唆された.