抄録
症例の概要:患者は72歳の男性で,食事の一口目での右側下顎臼歯部の強い痛みを主訴に来院した.当科初診時,右側耳下腺上部に圧痛を認めた.臨床症状よりファーストバイト症候群(First bite syndrome:FBS)を疑い,プレガバリンを50mg/日から処方した.その上高血糖を長期間放置していたため,当院糖尿病・内分泌科を紹介した結果,糖尿病の診断の下,内服治療が開始された.眼科受診では白内障と診断され,手術が施行された.さらに心房細動と大腸ポリープも発見され,治療が行われた.糖尿病の改善に伴い,食事一口目の痛みが消失し,圧痛も改善したためプレガバリンの処方を中止し,当科は終診とした.それ以外の加療は継続され,現在まで痛みは再燃していない.
考察:特発性FBSは耳下腺への交感神経支配の障害で引き起こされると考えられている.本症例では,糖尿病による自律神経系の異常がFBSや心房細動を引き起こしていた可能性がある.症状の改善には,糖尿病の治療に加え,唾液腺の水・電解質分泌の調節における主要な細胞内メッセンジャーであるカルシウムイオンチャネルに作用するプレガバリンが奏効した.
結論:特発性FBSの治療においては,糖尿病が関与している可能性に留意することが重要である.