抄録
症例の概要:患者は60歳女性(主婦).舌痛を主訴に,2014年9月,長崎大学病院・口腔外科を受診後,当科を紹介受診となった.診察所見として「地図状舌」がみられた.各種検査を行ったが,異常所見および異常値は認められなかった.他覚所見としてみられた「地図状舌」が症状に起因する可能性は低いと考え,MW分類(心身医学・精神医学的な対応を要する患者の4分類)のうち,分類B(自覚症状・他覚所見乖離ケース)に相当する「舌痛症」と診断した.心身医学療法と表面麻酔薬を用いた局所的薬物療法により,良好な疼痛管理が継続維持できるようになった.
考察:舌痛症の病態は不明であるが,口腔粘膜病変,口腔乾燥,亜鉛・鉄・ビタミンの不足,糖尿病,甲状腺機能低下症,薬の副作用,自己免疫疾患,不安やうつ,ストレスなどが原因で同様の症状が出現することがある.しかし,舌痛症は診断基準や確定診断の方法がなく,考え得る局所的,全身的,心理社会的要因の関与を一つ一つ評価して診断を行うことになる.本症例のように,他覚所見が存在しても,所見では自覚症状を十分説明できないケースでは,所見の説明や非侵襲的な治療で経過をみることが大切である.
結論:本症例では,心身医学療法と局所麻酔を用いた薬物療法を併用することで,良好な疼痛管理が行えた.現在,舌痛症は特に有効な治療法が存在しないが,本治療法は,選択肢の一つとなる.