薬剤疫学
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企画/ディオバン事件のもたらしたもの
3.試験統計家の役割と責任
手良向 聡
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2019 年 24 巻 2 号 p. 79-86

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抄録

問題となったディオバンの臨床試験に共通するのは,1)データマネジメントの専門家を配置したデータの質管理体制が構築されていなかったこと,2)臨床試験の方法論(科学性・倫理性,実施体制などのあらゆる側面を含む)を熟知した試験統計家が参画していなかったこと,3)イベント判定の盲検性や中間解析の独立性を担保する手順書などが存在せず,試験事務局の医師や統計解析担当者などが,試験途中に重要なデータを自由に閲覧・編集できる状況にあったことである.我が国の生物統計家のコミュニティである日本計量生物学会は,2013 年に「臨床研究に関する日本計量生物学会声明」を公表するとともに「統計家の行動基準」を策定し,2017 年からは試験統計家認定制度を開始した.大学・研究機関などがスポンサーの(医師主導治験以外の)臨床試験では,標準業務手順書が整備されておらず,試験実施体制も責任の所在も明確でないものが多くある.また,統計コンサルティングと称して,臨床試験の標本サイズ算出やデータ解析の技術指導を行っているだけで試験統計家を名乗っている人が少なからず存在する.ディオバン事件を教訓として,大学・研究機関および学会は,社会的な責任を自覚した信頼できる試験統計家を育成し,その社会的地位を確立するという使命を担うべきである.

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© 2019 日本薬剤疫学会
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