跳馬・跳箱運動の演技や技術指導への示唆を求めて, 写真分析法を適用して, 特にその踏切りと着手について考察した. 即ち, 体操競技経験者10名による屈身とび・腕立て前転とび・前転とび屈身宙返り, の演技を分析し, 特にその重心軌跡から力学的ベクトル解析を踏切りと着手について試み, 次のような結果を得た. 1. 優れた演技を決定づける特定の技術的・力学的条件を限定することは, 不可能に近い. 即ち, 助走・踏切り・着手などのある一つの条件の優劣は, 他の条件における補償的動作があるために, 総合的演技の出来ばえを必ずしも支配していないと思われる. 2. 重心移動がスムーズに踏切り動作に持ちこまれるような助走スピードがあることと, その最後の一歩における踏切板への重心入射角が小さいことが, 強い蹴りと, スケールに富んだ第一飛躍にとって有効であると考えられる. 3. 所要時間の短い, 鋭い蹴りや着手は, 引続き展開される第一・第二局面のスケールに対して有利に働く. 4. 踏切りにおける蹴りは, 直下よりはやや後方に向けられるのが一般的であり, 一方, 着手では前下方への突きが多く見られた. 5. 転回系の跳躍技における体幹の前方回転は, 速い助走に続く, 後下方への蹴りによって生まれる例が多いが, この時の重心軌跡は, 特に非回転系の跳躍技と大差がなかった. 6. 非回転系の跳躍技でも, その実施前半において体幹は前方回転をするが, 着地以前にその回転を逆に戻すために, 腕の前上方向への振りや腰の屈伸運動を用いていることが明らかである.