体育学研究
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ハードル走のバイオメカニクス的研究 : スプリントとの比較
伊藤 章富樫 勝
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1997 年 42 巻 4 号 p. 246-260

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抄録

ハードル走速度を決定する要因を明らかにするため, ハードル走(踏切, 着地, 1歩目, 2歩目)の下肢動作を動作学的側面と動力学的側面から分析し, スプリント時の値と比較しながら検討した結果, 以下のことが明らかとなった. 1) ハードル走においては, 身体重心の水平方向の速度はハードルの踏切で減速し, 着地とハードリング後の1歩目, 2歩目で加速した. 2) ハードル走速度の高い選手ほどハードルの踏切における支持期前半の身体重心の減速量が少なかった. また, この減速量は踏切脚の接地の瞬間の母指球と身体重心の水平距離が小さいほど少なかった. 3) ハードル走速度の高い選手ほど, 踏切前の踏切脚のもも上げ速度とその時点の股関節屈筋群の仕事量と平均パワーが高く, そのことが踏切足の接地の瞬間の母指球と身体重心の水平距離を小さくした(スプリントに近づけた)と考えられた. その結果, 支持期前半の減速を引き起こす前方キックに関係する膝関節伸筋群の仕事量は逆に低下したのであろう. 4) ハードル走速度の高い選手ほど, ハードリング後の着地脚の振り戻し速度が高く, ハードリング時間も短かった. また, この時点の股関節伸筋群の仕事量は, ハードル走速度の高い選手ほどスプリントの値に近く, 振り戻し動作を積極的に行っていたことが示された. 5) ハードル走速度の高い選手ほど, 着地足を接地する瞬間の膝関節角度と支持期中間時点の足関節の最小角度が大きく(スプリント以上に大きい), 支持期前半の足関節伸筋群の仕事量が低かった. これは, 高い重心位置で着地し, 着地衝撃をより少なくするためのハードル走特有のものであると思われた. 6) 支持期に脚全体を後方ヘスウィングする最大速度は, 全ステップにおいてハードル走速度と有意な正の相関を示し, スプリントと同様の傾向を示した. これはハードル間のインターバル走とスプリントにおけるキック動作の類似性を示唆している. 7) 以上の結果をまとめると, ハードル走速度と有意な相関が認められた測定項目は, 踏切動作と着地動作に多く見られ, ハードリングの重要性を示唆するとともに, ハードル走速度の高い選手は踏切においてはスプリントに近い動作と筋活動を, 着地においては一部スプリントを強調したハードル特有の動作と筋活動を行っていたことが明らかとなった.

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© 1997 一般社団法人 日本体育学会
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